−栃木県那須岳「三斗小屋温泉」−


2000年5月27日(土) 天気:曇〜晴〜曇 那須岳(茶臼岳):標高1915メートル

「みけねこ登山隊」那須岳の麓へ行く

 早朝,5時20分,我々「みけねこ登山隊」は,我が家を車にて出発した。今回の行き先は,栃木県那須町の那須岳の山懐にある三斗小屋温泉(の混浴風呂)である。さすがに朝は道が空いており,実に快適だ。途中セブンイレブンで,各自(実は,みけねこ登山隊のメンバーは,ボクと彼女の二人だけなのだ)オニギリ2個,500mlのペットボトル2本を買い,セッセと運転したのである。これっぽっちしか買わなかったには,(後で分かるが)ワケがあるのだ・・・
 7時40分,ようやく,那須湯本の温泉街を抜けて,有料道路であるボルケーノハイウェイの料金所についた。実は,ここは朝早いと料金所が無人のため,タダで通れると聞いて,ひそかに期待していたのだが,ウーム。悪事は栄えなかった。ちゃんと料金所のオジサンがいて,しっかり料金(350円)を取られてしまいました。もう少し早ければいいのかなぁ。
 8時にロープウェイ山麓駅着。予定では,ロープウェイで茶臼岳8合目まで行っちゃって,そこから歩こうと,ズルを考えていたのだが,ロープウェイの運行時間は8時半からである。駐車場が早朝からメチャクチャ混むとのウワサを聞いていたので,こんなに早めに来たのであるが,実際はガラガーラであった。人間というものは,混んでいると,大喜びで何時間でも並んで待っているものだが,ガラガラだと1秒だって待っていられないものだ。ボクタチは,30分も待つのはカッタルイと思って,さらに奥の「峠ノ茶屋」まで車で行ってみることにした。ロープウェイを使わない場合,「峠ノ茶屋」から歩いて登ることが出来るのだ。でも,それは足弱のボクタチにはキツイから,ロープウェイの動き出すまでの時間つぶしに見るだけだよ。覗いて見るダケ・・・

「峠の茶屋」登山口にて

那須岳登山口。狛犬様がいるんだ

 車で5分もかからず「峠ノ茶屋」駐車場へ。すると・・・こっちの広い駐車場は車でいっぱいじゃないか。なんとかハジッコに車を止めたボクタチだったが,その前を重装備の登山者たちが,ワッシャッワッシャッ登山口へ歩いていくのに唖然としてしまった。ちなみにボクタチの装備であるが,街歩き用のみすぼらしいジーパンにシャツ。靴底がツルツルの年代物の運動靴。リュックにはセブンイレブンで買ったオニギリとペットボトル。お菓子少々。そして一応気をつかって準備したカッパ(山の天気は崩れやすく,傘なんか差して歩いている人はいないと聞いたから)だけなのだ。
 しかるに,目の前を通る登山者達は・・・まさしく重装備。このままエベレスト登山だって軽く出来ようって感じではないか!実は車の中で,彼女とこういう会話を交わしていた。「この靴大丈夫かしら。みんな登山靴じゃないの?」「ナニ。大丈夫だって。あんなトコ登るくらい。みんな厚底グツやら,便所のスリッパで登っているに違いないよ」・・・いささか,ボクの認識は甘かったようである。しかし,とにかく,ここまで来ちゃったのだ。しばらくの間,ドンドン登っていく登山者の列を見ていて,ボクタチはガマン出来なくなった。よーし。ロープウェイは使わないで,ここからがんばって登っちゃうぞ!8時6分,登山開始である!

 約1分後,最初の長い階段でバテバテとなったボクタチは,「那須岳登山指導センター」の小さな建物を発見する。登山計画書を入れるポストがあるのだが,書く紙が置いてないじゃないか。遭難に備えて,せっかく書こうと思ったのに〜(ナンチャッテ)。低木帯の中をそのまま登っていった。すぐに,鳥居と,木の橋が現れ,橋を渡った両側に狛犬様がいたので,今回の旅の安全を祈願する。ぽつんと美しい山桜があり,そこでみんな写真を撮っている。ここから駐車場がかすかに見えるんだ。ボクタチの車はどれだろう・・・

写真中央右よりに峰の茶屋がかすかに

 しばらく登ると火山礫のザクザクとした急なガレキの道となる。右側が急な断崖となり,岩だらけで,非常に歩きづらい。ところどころの岩に黄色いペンキで矢印が書いてあるので,それが目印になるわけだ。もっとも,登山者の長い列が続いているので,その後をくっついて歩けばいいんだけど。右側高くにニセ穂高と呼ばれる荒々しい朝日岳が見え,右下にはクマザサが青々と実にキレイである。登山者達をよく観察すると,ボクタチみたいな装備(つまりロクなカッコをしていない)の人もチラホラいたので,安心した。結構,お年寄りも多い。ボクの経験だと,若者なんかよりお年寄りの方がよっぽど健脚。若者は根性ないからなァ・・・誰か親切な人がボクのコトを背負って上まで登ってくれないものか・・・と彼女を見たら,なにかを感じたらしく,スススと早足になる。くっそー。普段,体力がないフリをしているが,ぜったいボクより体力が有り余っているに違いない。そう言えば,ボクはゆうべ,3時間くらいしか寝ていなかったんだっけ。なんか寝付かれなくて。風が強くて冷たいのだが,身体は汗だくである。
 突然,右にカーブしていく登山道の遙か先の峰線に,建物のようなものが見えてきた。あそこが,中間目的地の「峰の茶屋」だ。それにしても,遠いなぁ。たまらず,途中途中立ち止まっては,水を飲む。手足は冷たいような感じなのだが,リュックを背負った背中は汗でぐっしょりである。は,あっ。雪をめっけーっ!うわーっ久しぶり〜。オソルオソルさわってみる。ヒャッコイじゃん!
 
 

全ての道は「峰の茶屋」より始まる...

峰の茶屋の避難小屋

朝日岳方面にみんな行っちゃうの?

 登山口より,約1時間後の9時,顔が赤いのを通し越して真っ青になったボクタチは,分岐点である「峰の茶屋」(峠の茶屋とまぎらわしいね)に到着した。ここは,「風の通り道」とも呼ばれ,ものすごい強風で何人もの登山者が吹き飛ばされたという,いわくつきの場所なのだ。「峠の茶屋」は,まだ新しい避難小屋で登山者がいっぱいたまっていた。ここで,オニギリを1個食べて,暫時休憩。大きな案内図があったので,コースを確認することにする。あれれ?ここから,右と左に道があるのだが,予定していた右の朝日岳方面に行くと,三斗小屋温泉までやけに遠回りらしいじゃないか。左に行くと,その半分の時間で行けると見た!ウーム。賢いボクタチは,急遽,左回りに行くことに変更だ。状況に応じて,臨機応変に計画を変更するのが,賢い人間ってモンだよね。むふふ・・・しかし,この間違いが地獄の苦労の始まりとは,その時のボクタチには,知るよしもなかったのであった。
 朝日岳方面の右の道へは,登山者の大半が歩いていくのだが,ボクタチは,まばらにしか人が行かない左の道をテクテクと歩き出した。風がますます強くなってくる。うううっ。ボクのメガネが飛ばされっちゃう。必死でメガネを押さえながら歩く。こわ〜い。マジで飛ばされっちゃう。明日の新聞に出ちゃうかも知れない。「那須岳の峰の茶屋付近で,登山者2名が風に飛ばされ,現在,絶望と見られている。目撃者の話では,2人は気楽にスキップを踏みながら歩いているところを飛ばされたとのことである。山の怖さを知らないハイキング気分の登山者の増加に,当局は頭を痛めている」なんてね。

なんじゃあ。こりゃあ!(誰かのマネ)

 左側からシューシューとものすごい音をたてながら,あちこちの場所から噴煙が上がっている。歩いている道からも,煙がモクモク出て,岩が湯ノ花で黄色くなっているじゃないか。「こりゃ,あったかくていいワイ」と騒いでみたり,残っている雪の上をコワゴワ歩いたりして,ようやく,約30分後,「牛ケ首」の手前の分岐点に着いた。
 ここにある道標によると,三斗小屋温泉へは,右へ下っていくみたいだ。なんかとても急そうだな・・・。案の定,急だった。ハッキリ言って。慎重にガレキを降りるが,岩が動いて,何度も滑りそうになる。ボクタチのツルツルの靴底は,ワックスをジックリ塗ったスキー板みたいなのだ。おそらく,ここが最もキツイ道だったのではないかと思う。草ひとつなかった道が,少しづつ低木が増えてきて,辺りは緑になってきた。しかし,この道はますます人がいないではないか。同じ方面に歩く人は,まったくおらず,2回ほど重装備の登山者とすれ違って,挨拶しただけであった。ところで,山の中は,マナーが大切である。ゴミを捨てないことはもちろん,煙草をすう人は,携帯灰皿で遠慮しながら吸うし,他の登山者とすれ違う場合は,必ず「コンニチハ」と挨拶しなければならない。クマと出会ったって,ニコヤカに「コンチニワ」と言えば,クマの方も「ガウグアァ」と軽く会釈してすれ違うってくらいだ。皆さんも,山登りの際は是非励行していただきたい。それにしても,だんだんと不安になってきた・・・この道でよかったんだろうか。確か,駐車場から「三斗小屋温泉」まで2時間半のハズなんだけど,もうそのくらいは軽く歩いているハズ。水も残り
半分となってしまった。ボクが飲み過ぎるのだ。(隊長は責任重大な分,ノドが渇くのです)

理想郷「姥ケ平」にて

姥ケ平より茶臼岳方面を望む

 10時頃になり,突然,下の方に白く開けた広場(ザレ場)が見え,ボクタチは,急に元気が出てきた。あそこで休憩だ!その広場は,(信じられないことに)ベンチもあり,立派な案内板もあった。今までの道はゆっくり腰を下ろすところさえなかったのに,なんて不思議な場所なのだろう。そして心から安心したことに,2組くらいの登山パーティがペンチの上でお弁当をやっつけているではないか。フゥ〜。良かった・・・正直,心細かったのだ。
 案内板を見てみると,ああっ!やっぱり!「峰ノ茶屋」で道を間違えちゃったのだった。「峰の茶屋」の建物の右側裏に回りこむと,本来の三斗小屋への道があったのを,あそこにあった案内板は,その道を省略していたのである。なんてこと!「でも,行きも帰りも同じ道じゃつまらないよね」「茶臼岳の噴煙も近くで見られたし,ボクタチ,ラッキーだよ」と強気の発言。せめて,こんくらい言って,慰めあわなくちゃ,やってられませんヨ。この場所は,「姥ケ平」と言い,噴火で植生が破壊され,こんなポッカリあいた場所が出来たらしい。ここから,見る茶臼岳の噴煙が実にみごとだ。写真をパチリ。この砂漠のオアシスのような別世界で,ボクタチは,持参したポッキーを食べて,大切なペットボトルをグビグビ飲むと,また痛む足をなだめつつ,この理想郷を後にして,ゆっくりと歩き出したのであった。

 「姥ケ平」から西へ伸びる道は,両側を木に囲まれた,すれ違いも出来ないような狭い道だったが,那須岳を登って以来,一番安全で快適な道でもあった。平坦な道ってこんなに歩きやすいものだったのだろうか。上を見ると,曇り空が明るくなってきて,雨の心配はもはやいらないようだ。シメシメ。
 しばらく進むとベンチと道標があり,右へ200m先に池があるらしい。ベンチの上には,ふくらんだリュックが二つ。大事な荷物を置いて,池を見に行った人がいる。ムフフ。結構なシロモノ(たぶんサイフとか)が入ったリュックを置いて。グフフ・・・しかし,我らが「みけねこ登山隊」は(今日は)山とマナーを愛する冒険者達であった!・・・後ろ髪を引かれる思いで(ふくらんだ)リュックを後にした我々だったが,しばし進むとまた道標を発見。まっすぐ進むと湿原へ,右へ下ると「三斗小屋温泉」だとある。
 右へ,北方向へ我々は降りだした。しかし,またまた歩きづらい道になった。途中で木の枝のつえを見つける。山歩きにはこれがあると,グッとキブンが出るものね。もっとも,すぐ折れちゃうので,また新しい杖を探すのだ。水戸黄門みたい。歌を歌いながら歩く。「じ〜んせい ラクばかり〜♪」
 ダケカンバの林の中,道端には,高山植物らしい可憐な花が咲き,ところどころに山桜が美しい。木に赤や黄色のテープで道を示していなかったら,迷ってしまいそうだ。雪だまりや川を数カ所渡ったが,やはり二組くらいの登山者とすれ違っただけ。疲れてきたボクタチは,休憩がどんどん多くなった。口数も少なくなって,つねに地面を見て歩いている。水の残りが少ないのも心配だ。最後の沢を渡り,坂をまたひとつ登ると,11時過ぎに突然,道標のあるT字路に出た。
 もしかして・・・やっぱり。「峰の茶屋」からくる本道はこの道だったのである。ふー。もう少し。もう少しだ。左(西)へたった20分で「三斗小屋温泉」と書いてあるではないか。やったゼ!すっかり,気が軽くなってしまった。この道は,遊歩道みたいに広くて快適である。あ〜幸せ。ここで,ようやく,登山客とどんどんすれ違いだした。挨拶するのも忙しいくらい。みんな,もう温泉に入って帰るところなんだろう。あれ?あの親子ほども年の違う男女のカップルは,朝,ボクタチといっしょに「峰の茶屋」まで来た二人じゃ〜ん。あんな仲良さそうにして(きっとフリンに違いない)。
 そりゃ,そうだよね。ボクタチだって,順当な道を進めば,もう温泉にチャッポリつかって帰る途中だったかも知れないのだ。

つ・ついに!「三斗小屋温泉」到着だ

手前のカメラおじさんはボクじゃないです。念のため

オジサンのオケツ。ボクの玉の肌を見せたかった

そして・・・11時30分。見えた!黒っぽい建物が木の陰に!道の突き当たりが(思ったよりはずっと)こじんまりとした敷地となっていて,右に煙草屋旅館,左に大黒屋旅館の古い古い建物があり,この二軒で「三斗小屋温泉」を構成するのである。しばし呆然と眺める。なんでも「三斗小屋温泉」は1142年に発見されたと伝えられ,標高1460mに位置する自家発電と無線電話に頼っている秘湯なのである。食材なども,宿の人が麓までセッセと山道を往復して運んでいるらしい。この宿に就職するのは大変そうだ。大黒屋は内湯だけで,しかも残念ながら日帰はやっていないので,ボクタチは当然煙草屋旅館に入ることになる。

右が煙草屋旅館,左が大黒屋旅館。当然右へ

 煙草屋の古めかしい入り口をそっと覗いてみる。うわっ!やっぱり想像通り(古めかしい)って感じ。なんか忙しそうに昼飯の準備を従業員だかなんだか分からない若者達がゴニョゴニョ働いている。唯一,従業員らしく見えるオバサンを捕まえて,日帰入浴について聞いてみる。「お昼から混むけど,まだ大丈夫ですよ。一人500円だけど露天は混浴だから」と言って,彼女に内湯をオススメしてくれた。しかし,彼女もみけねこ登山隊の名誉ある一員。男とだろうが,タヌキと混浴だろうが,露天に行くに決まってるのだ。ボクとて,例え女子高生・女子大生のたむろする混浴露天に一人で入る覚悟はいつでも出来ている。たとえ,この身が(彼女たちのイヤらしい目つきで)汚れようとも,だ。うちてしやまんの精神である。
 土間にクツを脱いで,スリッパを履いて右の廊下突き当たりのドアを開けると,サンダルがいっぱいあった。これを履きかえて,トコトコ坂を登っていくと,すぐ露天があった。案の定・・・6人くらいのオジサン軍団が湯船やそこらで恥知らずなカッコをしているではないか。明るく「コンニチハ」と挨拶して,脱衣所らしきトコに入る。小さな男女兼用の脱衣所だが,奥の方なら,ボクの身体で彼女を隠せば,オジサンに見られないですみそうである。オジサン達がうれしげに含み笑いをしている中,我々は,そっと露天に入った。アルカリ性単純泉。しかし,茶色くにごった湯である。痛む足に温泉が実に気持ちいい。露天からの展望は実にすばらしかった。その時,オバサン二人組がやってきた。オジサン達を見て,一瞬ためらったようだが,彼女が(仲間を増やそうと)「大丈夫ですヨ」と声をかけると,安心したらしく,「生まれた時は,みんなハダカだもんね」と言って,脱衣所に入っていった。「向こう見ててくださいね」と言って。しばらくすると,オジサンのひとりが急いでパンツを履いてきて,カメラを取り出して,みんな並んで撮ろうということになった。こんなシャッターチャンスは,メッタにないと,ボクも急いでカメラを持ってきて,オジサンの後ろからパチリ!もちろん,ボクは,パンツを履くなんてムダなことはしなかったのは言うまでもない。これが秘湯の露天風呂のいいところである。みんな鷹揚にして,和気藹々。
 オバサン達が去り,オジサン達がなごり惜しげに去った。そして,ボクタチも後ろ髪を引かれる思いで露天から去ったのであった。「三斗小屋温泉」は,明治の初め頃までは5軒の旅館があったらしい。ここから西へ1時間ほど歩いたところに,三斗小屋宿跡があり,昔は,会津中街道の宿駅,そして白湯山信仰登山の地として栄えたが,戦後,急速に寂れ,1957年に最後の住人が去ってしまったとのことである。そんな歴史をつくづく考えながら,大黒屋への階段のところで,残りのオニギリと,残り少ない水を飲んだボクタチは,しばらくボ〜としていたが,意を決して帰路についたのであった。
 

三斗小屋温泉データ

泉質

アルカリ性単純泉,40〜58度

宿は2軒あるが,日帰入浴は煙草屋旅館のみで500円。営業は4月上旬〜12月上旬の間しかやっていないので注意。

効能

リウマチ・神経痛・疲労回復

施設

煙草屋旅館:0287-69-0882
大黒屋旅館:0287-63-2988

*2003年現在,葉巻屋旅館も,入浴のみはお断りしているとのことです。

「延命水」

 いつの間にか木漏れ日が差してきて,今度は暑くなってきた。ふー。雨が降らなくて良かった。12時30分,さっき通った快適な道を東へ戻る。すると,でっかいヘビが,クネクネと道を横切ってコッチを見ているじゃないか。しばしヘビとニラメッコをして,急いで通り過ぎる。ヘビのやつ,ボクのコトをいやらしい目つきで見ていたなぁ。ボクはヘビがキライなんだ。

道には,ところどころ雪が

 温泉に入ってオニギリも食べて,足取りも軽快・・・のハズだったが,13時ちょっと前に,さっきのT字路までさしかかると,やっぱり疲れが出てきた。温泉効果も長くは続かないものだ。今度は間違えないようにまっすぐ「峰の茶屋」まで行くことにする。この路は,茶臼岳の硫黄採取と,木材採取のために使われたとのことで,牛がモウモウ鳴きながら通っていた道なんだって。
 ダケカンバの明るい林の中の道なのだが,だんだんと上り坂となり,苦しくなってくる。「来るときの道に比べれは,ナンテコトないよね」と言い合っていたが,ウムム。やっぱり普段の不摂生がたたってクルチイのだ。休む間隔が増え,ついに残り少ない水があと一口になってしまった!いくら飲んでも足りないんだもん。このままじゃ,「峰の茶屋」に行くまでにヒボシになっちゃうよ。「三斗小屋温泉」でクソ高いジュースを買っとけば良かった。隊長として,いささか責任を感じてしまう・・・。
 しかし,天は我らを見放さなかった。道の左側にコンコンとわき出る水を発見したのである。足場の悪い濡れたそこには,「延命水」と書いてあり,コップがいくつかぶらさげてあった。冷たい水に手をかざしてみる。うわっ。ひゃっこい!彼女がゴクゴク飲むので,ボクも負けずにゴクゴク飲む。ゴクゴクゴクゴクゴクゴク・・・。うま〜い!まさしく命が延びる水である。助かった!ベットボトルに延命水をコッテリ詰め込んで,また出発だ!ところどころで見上げると,噴煙をあげる茶臼岳が木の間から見える。沢に架かっている木の橋を渡った頃から,汗がどんどん出て,休む度にせっかくの延命水をグビグビ飲んでしまう。オナカはガボガボだが,ノドがカラカラだ。
 14時頃,幽鬼のように,足を引きずりながら歩く我々の耳に「キャハハハ」と明るい笑い声が聞こえてきた。目の前が急に開け,真新しいログハウスが現れる。これは,雪や嵐の時に登山者が避難するための県営の避難小屋である。避難小屋の前には大学生くらいの若者が数人たむろして明るい笑い声を響かせていた。小屋の裏からオンナノコが出てきた。お花畑に花摘み(山で女性がトイレにいくことを言う。なお,男子の場合は「キジを打ちに行く」と言う)にいってきたらしい。男の子が明るく声をかける「山にゴミを捨てちゃダメだよ」「ちゃんとチリ紙は埋めたわよ」「そうか。紙は土になっちゃうもんね」・・・こんなヘンな会話だけど,若者も捨てたモンじゃないとうれしくなった。避難小屋の前をまっすぐ通り抜けたが,そこは林の中で,例の目印の黄色いマーカーがない。ウロウロしていると,さっきの若者が「たぶんコッチですよ〜」と教えてくれた。避難小屋の後ろに道があったんだ。さっきのお花畑の話を夢中で聞いていたものだから,気づかなかったのだ。

恐怖の急斜面を越えて...

後ろを振り返る。マジで急斜面なんですったら!

 ますます登りがキツクなってくる。そろそろ時間的に「峰の茶屋」に近づいているハズなんだけど・・・その気配もないじゃないか。向こうからオジイサンがやってきたので聞いてみた。「あと5分か10分くらいじゃよ。」ああっ。よかった。林はすぐガレ場になったが,喜んだのもつかのま,それからが恐怖の始まりだった。斜面沿いが狭い登山道となっており,岩や浮き砂で足場がかなり不安定だ。右下を見ると断崖絶壁と言いたくなる急斜面。ここの部分,相当風化が進んでいる。滑ったら,「ネコまっしぐら」で,ぜったい止まれないだろう。

まもなく峰の茶屋だ!

 せっかく手に入れた木の枝のつえを下に置いて,必死の面もちで歩き出した。今度は本気である。ツルツルの靴底がズリッズリッと音をたてる。二箇所ばかりは,中腰になって左側の斜面に両手を置いて,「大丈夫。ゆっくり進めばなんてコトないさ(ああ〜死ぬ〜)」と彼女に声をかけながらソロソロと進んだ。彼女のウメキ声が後ろから聞こえてくる・・・。自分のコトも怖いが,彼女がツルツル落ちるのを見るのが怖くて,後ろを振り返れない・・・。そして,数分後,ボクたちは真っ青になって座り込んでいた。前から,登山者達がやってきて,元気良く(チョッピリためらうみたいだが)あの恐怖の道を渡っていくではないか。ヒェェェェ〜。
 後は,安全なガレ場をため息をつきながら登ると,14時15分,突然,「峰の茶屋」の裏側に出た。ここのベンチで,例の延命水の残りを飲みながらベンチに座り込む「みけねこ登山隊」の面々。「もう二度と来れないわ」「ウン。そうだね・・・」そういえば,ボクタチは高所恐怖症だったんだっけ。いつの間にか,太陽が陰り,雲が多くなってきた。「峰の茶屋」からは長い下山者の列が出来ている。「さあ。ボクタチも帰ろう」

山桜。駐車場が見える

左方,クマザサを眼下に見る

 来るとき通った帰り道は,歩きづらいゴロゴロした道だが,転がり落ちる心配は今度はない。さっきの恐怖の後だし,前後に歩いている人も多いし,心は穏やかだ。しかし,疲れて,足に踏ん張りが利かないので,慎重に慎重に歩く。「ここあぶないよ」「ゆっくりね」ズルル・・・「ツルツルだ〜」
 後ろからオバサン達の笑い声が響いた。「ウチの人,コンパスが短いから,人よりいっぱい歩かなきゃならないの」「でも,真ん中の足を足したら,長くなるんじゃないかしら」「そうね。ホホホホ」ものすごくうれしそうである・・・むむむ。オバサンとは怖ろしい生き物であるな。オバサン達が先を追い越してから,そっと,彼女に今のセリフについて女性としての意見を求めたら,「そんな品のない話は耳に入らないのよ。自動的に取捨選択するシステムなの」と答える。ふーん。そういうものなのか。ボクの耳は,そういう会話にすっごく敏感だんだけど。
 そして,だんだんと降っていった・・・クマザサの原が見え,山桜の木があり,下に,下に・・・そして狛犬様。「無事に帰れました。ありがとう・・・」両手を合わせたボクタチ,「みけねこ登山隊」は元気良く駐車場に降りていったのであった。15時過ぎのことである。

「鹿の湯」の冒険

 とても肌寒くなってきた・・・雲も厚くなり,那須岳を見上げると霧がかかっている感じである。先ほどまでの暑さがウソのようだ。この駐車場にて,「みけねこ登山隊」もいよいよ解散の時がきた。涙ぐむ目と目。懸命に振る手と手。さらば。みけねこ登山隊。そして青春の日々よ・・・で,さっそく「みけねこ観光隊」を結成することになった。じゃ〜ん。
 観光隊の最初の任務は,那須湯本にある有名な日帰内風呂「鹿の湯」制覇である。まだ15時半前だから,ホテルに入るのは早過ぎってもんだし。車でボルケーノハイウェイをクルクル下る。道の両脇にある山ツツジのピンクがとてもキレイだ。
 殺生石にある観光案内センター反対側の駐車場に車を止た。そこから階段を降りていく。いつもなら大したことのない階段のキツイことキツイこと。この「鹿の湯」は,湯本の中心にもあるにかかわらず,なかなか風情ある混浴の内風呂との情報を仕入れたのだ。その名前の由来は,昔昔,傷ついた鹿がここに湧き出ていた温泉にチャプンと入って,「いい湯だな!ハハハン!」と(シカ語で)鳴いたと,実にありそうな故事なのだ。そして,小さな橋を渡ると・・・む?入り口にすごい人だかりが!

混浴したがるいやしい人々

川の右側に入口。左側の建物が温泉

 ええーっ!これ,みんな待っている人!那須の人って,老若男女問わず,こんなに混浴が好きなの〜?オジサンが出てきて,誰彼ともなく話しかける。「チクショー。ものすごい混みようで,湯船なんか入れないよ。やめた方がいいよ」
 一瞬,このオジサンは,きっと,あまりに,めくるめく快感を味わったので,同じ体験を他人にさせるのはモッタイナイと,こんな大ウソをついたのだろうか?・・・と疑ったのだが,待っている人達も不安になったらしく,出てきた別なオジサンに「どうでした?」と声をかけてくれた。「いや〜入らない方がいいよ。イモアライですよ。ヒドイもんだ」との返事。・・・しかし,賢いボクは,こう考えた。グフフフ。混浴でものすごい混みようね。フム。おしくらまんじゅうで,タオルなんかペロリと取れちゃうほどの。待っている人の性別を見るに,相当女性も混じっていると見た!グッシシ・・・
 しかし,冷静になって考えてみると,どうぜボクにペッタリくっつくのは,オジサンのタイコバラか,オジイサンのオシリか,もっとイヤなものに決まっている。土曜日のこの時間帯だから,今から帰る人が最後に鹿の湯に入って帰るのだろう。決してキレイな入りやすい日帰施設でもないのに,こんなに混むとは正直驚いてしまった。さすがに,あきらめたボクタチは,まっすぐ泊まるホテルに向かうことにした。残念だけど,「鹿の湯」は,またいつか来る機会があるだろうさ...きっと。
 時間は少々早かったが,車に戻って予約しておいたホテル「サンバレー那須」へ向かことにする。みけねこ観光隊は,登山隊とは大違いで,とっても軟弱なのだ。サンバレー那須は,4年くらい前に一度泊まったことがあり,今回2度目ということになる(1回目の情報は,温泉湯処情報!に書いてあります)。同じところに泊まるなんて,ボクタチにとっては,空前絶後なのだが,なんてったって,38の(混浴露天含む)風呂と,おいしいおいしいバイキングが目当てなのだ。なせ,ボクタチがオニギリ2個しか持たずに登山したのは,ここに理由があった。しかも,最近アクア・ヴィーナスという22種類の温泉プールが出来たと聞く。こりゃあ行かねばなるまいて・・・。

さらば。「みけねこ観光隊」

混浴露天風呂。カメラを向けるのも気を遣います

 ホテルについたのは,16時過ぎ頃であった。サンバレー那須は,本館の他にアネックス・山荘など8つのホテルの集合体であり,この間をバスがグルグル回っているのだ。ボクタチが泊まるのは,一番お高い本館である。エッヘン!チェックインして,まずは,ウェルカム・ドリンクコーナーへ。ここには,ワインや梅酒やコーヒーやジュースがいっぱい置いてあって,宿泊者は飲み放題なのだ。他のガツガツした宿泊者なら,いざ知らず・・・我が「みけねこ観光隊」は,品が良うござる!でも,まあ,せっかくだし...白ワインと梅酒とコーヒーとオレンジジュースとグレープフルーツジュースを飲んだ。ウ〜イ。ゲェ〜ップ!それから,部屋に入ると,さすがに疲れが出て,しばらくベットにバッタリ倒れ伏していたが,ゴハン前の明るいうちにチョイと温泉に出かけることにした。むふふ。混浴だもんね。
 案内を見てみると,あれれ?混浴露天は,男性はタオルか水着,女性は水着か貸し出しのムウムウを着用のこととある。前はこんな注意書きはなかったハズ。男性はいいとして,これじゃ女性がカワイソウである。こんなところにも男女差別があるなんて。ヒドイもんだ・・・。きっと,そのうち,女性団体がカンカンになって「アタシたちもハダカで入る権利を!」と抗議するに違いない。なんなら,みけねこが替わりに抗議してもいいのだが・・・
 混浴露天に入ってみると,昔はチラホラいた裸の人もまったくいなくなっていた。ただ,一回だけ,オナカのつき出たオジサンが小さな子供を連れて(タオルを手にマルダシで)入り口からニュッと入ってきたが,オヘソの下あたりに,若い水着女性達の熱い視線に気づいたらしく,オシリをのクネクネを振るやいなや大慌てで戻ってしまった。ウーム。気の毒なことである...もう,ここは完全に水着温泉になってしまったようだ。観光化が進むと,だんだんそうなってくるのだ。悪貨は良貨を駆逐するものだ・・・え?ボクはって?もちろん,水着を装着しておりました。だって,ムヤミに女性を喜ばしたって,しょうがないもの。さっそく,硫黄風呂やコーヒー風呂やミルク風呂や塩サウナに次々と入る。特に塩サウナはオススメだ。サウナの入り口に塩壺があって,これをゴシゴシ身体になすりつけるのである。ただし,ヘンなトコにつけると,とても痛いので注意が必要である。

アクア・ヴィーナスはプールでした

 しばし混浴露天で遊んで,今度はアクア・ヴィーナスの方へ通路を渡っていってみる。ここは,思ったとおり,流れる温水プールって感じだ。彼女は喜んでカッパみたいに泳ぎだしたが,ボクは,残念ながら木槌みたいに沈んじゃうので,トコトコプールの中を歩く。フト気がつくと,オンナノコ達に「○●○●!WAHAHAHAHA!」と話しかけていたヘンな外人さんが,カッパみたいに泳いでいる彼女の後を追って来てるような気がしてきた。どこに行っても近くにいるのである。アヤシイ・・・。
 そうこうして遊んでいるうちに,ゴハンの時間が近づいてきたので,そろそろ部屋に帰ることにし,彼女と別れて,男子脱衣所に戻ったら,例の外人さんがジャツとパンツに着替えてそこにいるではないか。フーン。彼女の後ばかりくっついて来たと思ったのは気にしすぎだったんだね。良かった・・・ボクは,身体を乾かそうと水着を脱いで,ボディードライヤの前に立って,ブォ〜オ〜とやっていた時のことである。外人さんが,せっかく着ていたシャツとパンツをペロリと脱ぐと,トコトコ,ボクのすぐ隣りにやってきて,ブォ〜オ〜と始めるではないか。ヒェェ〜。怖いよう。狙っていたのは彼女ではなくこの美少年のボクだったのか。美しいって罪だよね・・・這々の体で急いで部屋に戻る。
 さて,ここのメインイベントのゴハンは,すっごくおいしいんだ。バイキングなんて聞くと,みなさんはクソまずいパンとか玉子とかと思い浮かべるかもしれないが,サンバレー那須のバイキングはちょいと違う。ホントに何百種類もあって,ステーキとかその場で焼いてくれるし,お寿司だって,その場で握ってくれるんだ。ケーキもアイスもいろんな種類があるし。ズズズズ・・・。1時間後,二つのダルマが転がるように階段をやっとの思いで,降りていた。よく見れば,そのダルマは「みけねこ観光隊」のなれの果ての姿であった。しばらく,ボクタチは,部屋のベットに倒れていたが,寝る前にもう一度と,温泉とアクア・ヴィーナスに出かけてみたら,冷たい雨がザーッと降っていた。長い1日の終わり。そして,みけねこ観光隊は,夢も見ないでグッスリ眠ったのであった。

さあ・・・帰ろう。

 もう,みなさんに報告すべきことは,なにもない。朝起きると,朝は男女別になる温泉(当然水着なしである)に出かける。うつらうつらしながら入る温泉のなんと気持ちいいことよ。そして,バイキングの朝ゴハンを食べ,チェックアウト。途中,お土産屋さんに寄って,チーズケーキやら地ビールの那須高原ビールやらを買いつつ家路についたのであった。さらば。心に残る那須岳よ。そして,次に来る時はいつのことだろうか。いざさらば!

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